この曇り空は私と似ていた
佳奈達がただ、上履きを盗むのを忘れただけかもしれない。けれどいつもと違う靴箱を見るだけで、私の心は温かくなった。

教室に入れば、途端に繋がれた右手が解放される。そのことに不思議と寂しさを感じた。

ざわざわとしていた教室は、いつものように静かな雰囲気に包まれる。それからまた、ヒソヒソという話し声が聞こえてきた。

体はまた恐怖に襲われる。私は美華吏から言われた、大丈夫という言葉を自分に言い聞かせながら、ゆっくりと自分の席についた。

陽果と七生は当たり前のように今日もいない。

二人の席に鞄は置かれてあったので、どこかで楽しそうに話でもしているのだろう。

そう思えばまた、肌寒さを感じた。


その日の休み時間。

私はいつも通り読書にひたっていた。

「ねぇねぇ、糸湊さん」

頭上から私の名字を呼ぶ声がして、私は誰だろうと顔を上げる。

顔を見れば瞬間的に寒気がした。

声の主はいつも私の鞄や上履きを盗んでいく佳奈だった。後ろにはつれもいる。

私は恐る恐る美華吏の席の方を見た。けれどそこにいるはずの姿はいなかった。

私は驚きながらも辺りを見渡す。
< 67 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop