HONEYBEE(1)~アラフォードクターと一夜から始まる身代わり婚~
「小児病棟は他の病棟に比べて…可愛らしいですね」

「殺風景な場所では入院している子供たちが可哀想だから…子供たちが入院していても、楽しめるような内装にしています」

「此処で…柏原の子供も入院していたんですよね」

「はい…でも、私が病院に入る前のコトですので、詳しい話は先ほどの乾看護師長に訊いた方がいいですよ」

「居た…」

硝子越しに見えるプレイルームで、子供たちと遊ぶ柏原さんの姿を見えた。

「いいオジサンが…何してんだよ…全く」

普段は澄ました顔で仕事をこなす秘書が、少年のように笑って子供たちと共に遊ぶ姿を見て宇佐美社長は半分呆れながらも口許は穏やかに笑っていた。

「呼びましょうか?」

「いやいいよ・・・気が付くまで…見ててやる」

宇佐美社長は急に意地悪な表情になり、双眼でジッと柏原さんを見つめた。

社長の強い視線に気づいた柏原さんは参ったように頬を掻き、部屋から出て来た。

「呼んで下されば…迎えに行ったのに…社長も人が悪いですね…」

「ふん…何、いい年したオジサンが子供と一緒になってはしゃいでいるんだ…」

「すいません…つい・・・」

「まぁ、いい…一ノ瀬社長の見舞いも終わったし、帰るぞ。柏原」

「はい…院長夫人…これを」

柏原さんは持っていた玩具を私に渡した。

「つい、急いでたもので・・・持って来てしまいました…」

「分かりました…返しておきます。髭のオジサンの雇い主は宇佐美社長だったんですね」

「はい・・・」

「帰るぞ…柏原…」
先に踵を返した宇佐美社長が振り返り、柏原さんを呼ぶ。

「はい、直ぐに行きます。では、また来ます…」
宇佐美社長に急かされ、柏原さんは大股で追い駆けた。
< 210 / 262 >

この作品をシェア

pagetop