HONEYBEE(1)~アラフォードクターと一夜から始まる身代わり婚~
対する辻教授は産科医と言うよりも研究者で、学会で発表する学術論文に精を出していた。
最近、発表された論文のテーマは進化する体外受精に関する内容だった。
ヤツの兄・槇村京弥(マキムラキョウヤ)先生が体外受精専門医として成功している。京弥先生は俺の尊敬する先輩医師。辻教授は彼に対抗していた。
その内容の中に、凍結卵子で妊娠、流産した同じ東亜の新生児科医で彼の妻・遥夫人のコトが書かれていた。
元々、二人は子供作らない前提で結婚した。
が、辻教授に奥さんの方がそそのかされ、凍結保存していた卵子で体外受精を試みた。見事、妊娠したが、喜びもつかの間で流産。その処置を槇村に任せたらしい。我が子の死を目の当たりにして、平気でいられる医者が居るか?苛めとしか言いようがないやり方に俺は憤りを感じた。
槇村本人から訊いた話ではなく、救命に居た時の医者仲間からの訊いた話。医局のトップが若手で腕のある医者を潰そうとしていた。

「東亜の中ではいつかは潰されてしまうぞ。悪いようにはしない。俺の病院に来いっ。槇村」
俺は槇村に潰れて欲しくない。

「・・・まぁ、コンサルタントも紡さんに代わって…赤字から脱却できそうだけど…俺は東亜を辞める気ないよ…院長」

「槇村…」

「確かに…辻教授は俺を疎んでいる。俺達を自身の論文の為に利用した。でもね…俺は辞めないよ。
此処よりも東亜には最先端設備の医療機器が揃っている。それに…遥が居る…俺はともかく実績を積んで、上にのし上がる…今の東亜を変えるにはそうするしか方法がないからね…」

「お前…唯の医者のままでいるつもりではないのか…」

「あぁ~院長のお誘いは素直に嬉しいよ…でも・・・まぁ―・・・兄貴のように開業する手もあるね…今は目の前の命を助けるのが…重要だ…スクーリング検査は早急に受けてよ。院長」

「ありがとう…槇村」

「ほんじゃ待たね・・・」

いつものチャラけた彼に戻ったのを見届けて、俺は診察室を出た。
俺の心配は取り越し苦労だったよう。
スクーリング検査か…
俺は我が子の身を按じた。


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