あなたしか知らない
♢3


『結婚してやる』

と真一は言った。楓は、

『わかりました』

と答え、そのまま、それぞれの帰路についた。






あれから、半年はあっという間だった。
先に父の会社の援助がはじまり、もう楓には後戻りの道はなくなった。
ほとんど真一とは会っていない。
当然、話もしていない。

結婚式の当日になって、自分の横に立つこの知らない男性が、命がつきるまでの私の家族なのかな、と思う。

愛想良く式を終え、戸口で招待客を見送る、大事な仕事みたいなものだ。
そして気づく、招待客の中にさえ、真一と、何かしらを匂わせてくる女性の存在に。

両家の親も並ぶこの衝立の前で、それでもあからさまに分かるような、そんな態度を許している真一。
では、裏では? 
もし誰もいなかったら? 
普段は?

なぜ、よりどりみどりのお嬢様達の中から真一は選ばなかったんだろう。

いま、楓に敵意を向けるこの女性の方が、よっぽどか明るくて美しくて機知に富み、如才ない。

来ている服やアクセサリーから、見えないところでの自分への投資、そのお金のかかりようをみても、そしてここに招かれている事からも、よほど候補としては順位が上だっただろうに。

真一とも旧知の間柄、それより遥かに親しげだ。
あからさまな敵意は、自信の裏側だろうに。

(あ、でも、そうか)

彼の唯一の条件が守れないんだ。
彼女は、必ずや自慢するだろうから。

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