あなたしか知らない
♢4


新婚旅行、初日の夜。


「じゃ、寝るわ」


と真一はベットにはいった。

部屋は超豪華なスイートルーム。

真一が全部予約したので、楓には分かりようもなかったが、3日ぐらい泊まっただけでは、全部の場所を使いきれない、つまり、全然元がとれそうもない⋯⋯ なんて考えてしまう。
キングサイズのダブルベットが2つ。

大柄な真一も悠々と横になって寝ている。

ちょっと(あれ? )と思った。
結婚て、いや、それ以前に⋯⋯
付き合ったら男女ですら、聞きかじった知識では、何やらあるはずと聞いたが。

(まぁ、いいか)

と楓は思った。

分かりようがないのだから。

何かひどくされたのでも、何か言われたわけでもない。
粛々とお互い寝る事に、なんの文句があろうかと。

これから先、幾多の夜をどうせ過ごすのだ。その1日目がなんだと言うのだろう。

最初は他人が部屋にいる事に気詰まりを感じたが、無言で淡々と自分の事をひたすらしている真一だし、そう感じていてもどうしようもない。

彼が黙っているなら、自分も黙っているだけだ。

(わあ、ふかふか)

楓は大きなベットで、思いの外ぐっすり寝てしまった。




翌朝、

目が覚めたら、キチンと着替えた真一が、腕時計をはめているところだった、

あっ

慌てておきあがり、髪を撫で付け、顔を隠した。
寝起きに、部屋に人がいて、しかもよく知らない男の人で。相手はキチンと服を着替えていて、ああ、旦那さんなんだ、家族だった、と思い直した。


「よく眠れた? 」
「はい! おふとん、ふかふかでしたね」


と、言ったら、真一は複雑そうな顔をして、


「君は⋯⋯ 」


と言ったまま黙ってしまった。
不機嫌にさせたのだろうか。

日中は、ひたすら観光した。
仕事が忙しい、と言う事で、国内のしかも3日だけ修学旅行のような日程⋯⋯ 。
まぁ、ホテルだけは流石のそのあたりでは一番高級な一番高い部屋だから、そこだけはまるで修学旅行じゃないけど。

真一は仕事のように、義務のように、ガイドかなにかのように、調べ、話し、見るべきところは見て、登るところは登り、食べるべきものは食べ⋯⋯ 。

真面目にこんな風に、物事に取り組む人なんだな、と楓は思った。それは少し心がキュッと甘くなるほどの気持ちだった。

大人びて、冷たい物言いで、部屋でそこに楓がいないように振る舞う真一の、少し子供っぽいというか、素直というか、不器用というか、意外な一面だった。

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