あなたしか知らない
♢5
3ヶ月後
でもさすがにこれは⋯⋯
おかしくないかな⋯⋯
いくら『知らない』とはいえ、さすがに疑問に思っている⋯⋯
「それで、どうなんです?その後、生活は? 」
「あのお母さん⋯⋯ 」
うっ
あぶなかった、
一瞬ヒヤッとした、
真一の唯一の条件を、無意識に破ってしまうところだった⋯⋯ 。
「うふふふふふ」
とりあえず、笑って誤魔化した。
すごく楽しい、とか、幸せです、とかも『一切言わない』部分に抵触するんだろうか。
こんな人付き合いもない私ですら、母親に対してすごくあぶなかった!
もしかして、変じゃないかと、相談してしまいそうになるなんて。
じゃ、ほとんどの女性は、絶対無理じゃない?
私は悩んでいるのかもしれない、と楓は思った。
何の問題もなくて、ものすごく大問題がある状況、楓から、真一に歩み寄らないといけないんだろうか。
それとも、一生、こんな、ゴッコのような結婚生活を続けるつもりなのか、
これが、彼の『言わない』事の本当の中身、条件なのか。
真一の初めて見合いの席でのひどい態度は、別に3ヶ月たった今でも何ら変わらない。
でも、ひどいにはひどいのに、ひどくないのだ。
ちゃんと、節度を持って接してくれる。
決して無理強いしたり暴力をふるったりもしない。
傍若無人で、きつい物言いのように思うが、別にその内容自体はキツいものではないし、むしろ優しい⋯⋯ ような⋯⋯ と楓は思う。
間違ってカップを割ってしまった時、カップより楓の怪我を心配してくれた。
『バカな事するな』
と言葉ではキツく言われた。
楓はビクッとしたが、その直後、真一は楓の手をパッと持って破片から遠ざけた。
つまり、それはカップを割ってしまった過失についてではなく、無謀な片づけで指を切ってしまいそうな事についてだったのだ。
夕食が食べれない時は、必ず連絡がある
[いらない]
と。
人によっては驚くほど無愛想な一言だが、連絡を送り忘れた日、遅く帰ってきてから、楓の作った夕食をすべて食べた。
何やらおかしいな、と思っていた。
無理をして食べているように感じたからだ。
後から、会食があり、コース料理を食べて帰宅していたことを知った。自分が連絡をしなかったから、用意した食事を黙ってすべて食べたのだ。
なんだか⋯⋯
無愛想なのに、可愛らしいところがある。
だから、楓の誕生日にペンダントをくれた時は、思わず涙が出るほど嬉しくなってしまった。
黙って何やら紙袋を渡してきた。
「はい? 」
と受け取った。
開けてみた。
清楚な、可愛らしい、小さいが趣味の良い高価なペンダントだった。
あまり出歩かない楓でも、普段にもつけられて、しかし、大事な席でつけていてもおかしくないようなもの。
見た瞬間、これは真一が選んだんだ、と思った。
知らん顔でいつも通りに振る舞う彼が、微妙に、後ろにいる楓の気配を感じようとしている⋯⋯ 。
楓が思わず泣き始めて、少し慌てるように、頭をぽんぽんと撫でられた。
頭から、彼の手の温度が、彼の体の一部が楓に触れて、楓はこれが足りない自分たちなんだと分かった。
ペンダントを送られたその彼の心の嬉しさとともに、全然足りてない関係に気がついてしまったのだった。
それだけが、真一と唯一触れ合った瞬間だったから。
3ヶ月、ただ粛々と暮らし続けているから。
3ヶ月後
でもさすがにこれは⋯⋯
おかしくないかな⋯⋯
いくら『知らない』とはいえ、さすがに疑問に思っている⋯⋯
「それで、どうなんです?その後、生活は? 」
「あのお母さん⋯⋯ 」
うっ
あぶなかった、
一瞬ヒヤッとした、
真一の唯一の条件を、無意識に破ってしまうところだった⋯⋯ 。
「うふふふふふ」
とりあえず、笑って誤魔化した。
すごく楽しい、とか、幸せです、とかも『一切言わない』部分に抵触するんだろうか。
こんな人付き合いもない私ですら、母親に対してすごくあぶなかった!
もしかして、変じゃないかと、相談してしまいそうになるなんて。
じゃ、ほとんどの女性は、絶対無理じゃない?
私は悩んでいるのかもしれない、と楓は思った。
何の問題もなくて、ものすごく大問題がある状況、楓から、真一に歩み寄らないといけないんだろうか。
それとも、一生、こんな、ゴッコのような結婚生活を続けるつもりなのか、
これが、彼の『言わない』事の本当の中身、条件なのか。
真一の初めて見合いの席でのひどい態度は、別に3ヶ月たった今でも何ら変わらない。
でも、ひどいにはひどいのに、ひどくないのだ。
ちゃんと、節度を持って接してくれる。
決して無理強いしたり暴力をふるったりもしない。
傍若無人で、きつい物言いのように思うが、別にその内容自体はキツいものではないし、むしろ優しい⋯⋯ ような⋯⋯ と楓は思う。
間違ってカップを割ってしまった時、カップより楓の怪我を心配してくれた。
『バカな事するな』
と言葉ではキツく言われた。
楓はビクッとしたが、その直後、真一は楓の手をパッと持って破片から遠ざけた。
つまり、それはカップを割ってしまった過失についてではなく、無謀な片づけで指を切ってしまいそうな事についてだったのだ。
夕食が食べれない時は、必ず連絡がある
[いらない]
と。
人によっては驚くほど無愛想な一言だが、連絡を送り忘れた日、遅く帰ってきてから、楓の作った夕食をすべて食べた。
何やらおかしいな、と思っていた。
無理をして食べているように感じたからだ。
後から、会食があり、コース料理を食べて帰宅していたことを知った。自分が連絡をしなかったから、用意した食事を黙ってすべて食べたのだ。
なんだか⋯⋯
無愛想なのに、可愛らしいところがある。
だから、楓の誕生日にペンダントをくれた時は、思わず涙が出るほど嬉しくなってしまった。
黙って何やら紙袋を渡してきた。
「はい? 」
と受け取った。
開けてみた。
清楚な、可愛らしい、小さいが趣味の良い高価なペンダントだった。
あまり出歩かない楓でも、普段にもつけられて、しかし、大事な席でつけていてもおかしくないようなもの。
見た瞬間、これは真一が選んだんだ、と思った。
知らん顔でいつも通りに振る舞う彼が、微妙に、後ろにいる楓の気配を感じようとしている⋯⋯ 。
楓が思わず泣き始めて、少し慌てるように、頭をぽんぽんと撫でられた。
頭から、彼の手の温度が、彼の体の一部が楓に触れて、楓はこれが足りない自分たちなんだと分かった。
ペンダントを送られたその彼の心の嬉しさとともに、全然足りてない関係に気がついてしまったのだった。
それだけが、真一と唯一触れ合った瞬間だったから。
3ヶ月、ただ粛々と暮らし続けているから。