SINOBI 隠苑の国に咲く花
「親がいないのかい?」
「ううん、父ちゃまと母ちゃまは仕事に行っているの。」
抑揚のない声でそう続ける。
「すぐ戻ってくるって言ってたの。今日は紫乃陽の着装のお祝いをするからって…。」
着装とは5歳になった子供が初めて忍びの正装である黒装束を身につけ成長を祝う儀式。
今時、そこそこ裕福な名家しかやらない伝統行事だ。
「だからね、もうすぐ帰ってくるの。
もうすぐ…ーーー。」
色を無くしていく瞳とともに、辛うじて支えていたのであろう体が崩れ落ちた。