王子様ができるまで
「妃芽子様の駆け落ちの件を聞いた時、わたくしはびっくりしたのと同時に少し嬉しかったのですよ。」
「…え?」
駆け落ちが嬉しい…?
「妃芽子様は小さい頃からおっとりとした方で、ご自分の意志で行動なさることはほとんどなかったんですよ。
それなのに駆け落ちなどという、強い意志なしではなし得ない行動をなさった。
それがわたくしには、寂しいのと同時に喜びでもあったのです。」
佐和さんはそう言って遠くを見つめた。
切なくも愛情のこもった眼差し。
お母さんはこんな優しい眼差しを持った人に育てられたんだ…。