エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
「私もそう思います。なんで私と付き合ってくれたんだろうって、だから本当にうれしくって」
あははと笑う様子は幸せそうで、ふたりの女は虚を突かれたような顔をしている。
「あ、でも私も気になるので、今度聞いてみます。みんな不思議がってますよね、きっと」
「えっ、ちょっ」
途端に慌てだすふたりは、自分の名前が伊東先生に伝わるのはまずいと思ったのだろう。対する彼女は、今自分を虐めようとしていた人間を撃退したことを理解しているのかそれとも天然なのか。
それが気になって、ちょっと離れたところから彼女の表情を見ていた。その時だ。
「雅!」
俺の背後の方から、彼女を呼ぶ声がする。彼女は、ぱっとうれしそうに顔を向けた。俺の方、いや俺の背後の方へ。
「雅、こっちおいで」
おそらくは、後ろで手招きでもしているのだろうか。俺は、彼女にくぎづけだったから背後まで見ていない。
ただ、彼女の表情が花のように綻ぶのを見た。幸せだと言っていた、あの言葉は嘘じゃないのだろう。そう思わせる笑顔で、彼女は小走りに俺の横を駆け抜けていく。
ちらりとも、俺の方は見ないままだ。それだけ、彼に夢中なのだと、誰でもひとめでわかる笑顔だった。