エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
一途で純粋。明るくて、疑うことを知らない。
そんな顔をさせられるのだから、きっと伊東先輩は彼女を大事にはしているのだ。たとえ時々、気晴らしのような遊びはしていても。
彼女が幸せならば、その表情を歪ませたくはなかった。だが、彼の浮気癖も知っていて、見ているだけというのは腹の底から気分が悪い。
俺なら絶対に、あの顔を曇らせたりしないのに。その気持ちは心の奥で澱んで黒く渦巻いて、彼女の笑顔に似合うような決して綺麗な感情ではなかった。
だから、たった一度だけ伊東先生に言ったことがある。俺も同じ病院に勤めることになって、後輩としてかわいがってくれていた彼が飲みに誘った時だ。
彼女ではない、他の女性からの電話を思わせぶりな言葉であしらって切った時。
「伊東先生、あんなに健気な彼女がいるのに。隙があったらもらいますよ」
軽口のような雰囲気で言ったが、俺は本気だった。いや、言葉にしてから自分で気が付いた。彼は、酔った上での冗談だと思ったようだが。
「雅はダメ。かわいいだろ、俺しか見てないからな」
黒い感情を隠して、口元だけで微笑む。
それがきっと、俺の不毛な恋の始まりだった。