おたのしみ便
「このひととなら、まあいろいろしてもいいかなってシミュレーションしてるとこ」
「いろいろって……」
「もう! やだ! 葉菜!」
鏡子はわたしにトトロを投げつけた。その顔が耳まで赤く染まっている。
明日、学校でクラスの友達に相談しよう。その日のわたしはもう、思考能力がキャパオーバーだった。

鏡子に恋人ができると、彼女と会えるペースはぐんと減った。
まだぎりぎり携帯電話も普及していない頃だった。おたのしみ便の存在がなければ、わたしと彼女をつなぐ糸はきっともっと細かったことだろう。
「このメモは読んだら破り捨てること!」と朱記(しゅき)された便箋には、その注意書きより小さな細い文字で「ついにファーストキスしちゃいました☆ 今度会ったら話聞いてね! きゃー」と書き添えられていた。

そのときの包みには、「デートのときに買ったクッキー」が入っていた。
お茶も用意せずに、学習机の上でわたしはそれをばりばり食べた。
季節が、わたしの親友を大人にしてゆく。そのことがひどく、淋しかった。
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