メガネをはずした、だけなのに
振り向かなくても分かってしまう。
聞き慣れた声に心をはずませ、私は急いで振り返った。
制服のスカートと長い髪の毛先が、後を追いかけるようにフワリと揺れる。
視線の先には、小学生の時から大好きな賢斗くんが立っていた。
「後ろ姿を見ただけで、私だって気づくのね」
「まあな、メガネをはずして髪をポニーテールに結んでも、弓子は弓子だから」
「成長して大きくなったけど、雰囲気は変わらないようね」
お互いに顔を見合わせ、なぜか笑ってしまう。
何でもない日常で話す、賢斗くんとの会話が好きだった。
小学生の時に、ピアノ教室で笑顔を見せながら冗談を言い合ってたな。
中学生になった賢斗くんは、お母さんの体調不良やピアノ教室の閉鎖などもあって笑顔が少なくなっていた。
それでも、他の女子生徒とは違う態度で私に話かけてくれる。
うらやましく思われた事もあったけど、小学生から一緒に過ごす機会が多かった特権だ。
「ところで賢斗くん、これからどこに行くの?」