メガネをはずした、だけなのに

「ちょっと職員室にな……」


 また職員室に行くんだ。


 私が担任の先生に呼び出されて足を向けると、結構な確率で賢斗くんと遭遇する。

 A組の担任教師と何を話してるか気になるけど、職員室の中なので聞き耳をたてながら近づける状況じゃない。

 先生からプリント用紙を手渡された時に、チラッと様子を見る程度だ。


 私が見た感じ、A組の担任教師はいつも渋い顔をして困った様子。

 賢斗くんが話す言葉に対して、首を横にふるだけ。

 何を相談してるか聞き取れないけど、賢斗くんの真剣な眼差しを見る限り重要な事だと勘ぐってしまう。


「じゃあね、賢斗くん」


「おう」


 私に背中を向けて歩き始めた賢斗くん、そのまま職員室へ向かうのだろう。

 結局、何も教えてくれないまま姿を消していった。


 賢斗くんの秘密主義は幼いころから変わらない。

 私は今まで相談や悩みを打ち明けた事がなかった。



 きっと、誰かの助けを借りるのが嫌な性格なのかもしれない……



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