メガネをはずした、だけなのに

 幼いころから神童(しんどう)と呼ばれてきた賢斗くん。

 小学六年生の時に出場したコンクールで一位になって、優勝したのを最後に私は彼のピアノ演奏を聞いてない。


 噂では、お母さんの知り合いの有名なピアニストさんに師事して、練習はしてるみたいだけど……


 本人に聞いても「まあな」としか答えてくれない。

 色々と聞き出すことはできないけど、噂として私の耳に聞こえてくる。


 驚いたのは、中学卒業と同時に海外へ留学するというもの。

 ピアノを勉強するため心機一転と考えてたようだけど断念。

 私と同じ高校に通って、学校生活を過ごしてる。


 小学生の時にピアノ教室で私が告白した答えを、聞けないままになるところだった。

 いつまで待ち続ければいいの、賢斗くん。

 高校生になるまで曖昧のまま、付き合えなければハッキリと断られたほうがいいけど……


 何年も片思いしてたから、もうちょっと頑張ろうかな。


 入退院を繰り返してる、お母さんの事が心配なのもわかるよ。

 コンクールで入賞して、喜ばせてあげるのが一番の薬だよね。


 高校生になった賢斗くんは、どんな演奏をするのかな……


 賢斗くんの背中を見つめながら、口を閉じて考え込んでいた時に背後から声がした。



「綿貫くん!廊下で立ったままタヌキ寝入りかっ!」



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