メガネをはずした、だけなのに

「まちたまえ綿貫くん!」


「嫌です、一秒だって待たないわよ」


 小走りで廊下を歩く私に向かって、相葉くんが背後から近づいてくる。

 眼鏡のレンズを怪しく光らせて、ちょっと怖い印象。


「なんで私についてくるの?」


「逃げるから追いかけてるのだよ!」


「相葉くん、意味不明なんですけど」


「タヌキに意味を説明して理解できるのかっ!」


 売り言葉に買い言葉で、会話が成り立たないよ。

 こんな時は、女子トイレに避難してやり過ごそう。


「じゃあね、相葉くん」


「ぬおおっ!ずるいぞ綿貫タヌキくん!」


 とりあえず急いで、トイレの中に入ったのはいいけど……



「えっ、うそっ!」



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