メガネをはずした、だけなのに

 どうしても、この先から響き伝わってくるピアノ演奏を見たい。

 まっすぐ一直線に延びる長い渡り廊下を見つめたまま、私はつぶやいた。


「行くしかないよね……」


 恐る恐る、長い渡り廊下の床に足を乗せる。

 歩き進んでいくと、板張りの床がギシギシ音をたて始めた。

 それでも歩みを止めず、資料を持つ手に力を込めて勇気を振り絞る。

 まだ夕方なので、明るいから恐怖心も薄い。


 なんとか、長い渡り廊下を歩き進んで旧校舎に入る。

 左右を見ると廊下があって、教室みたいな作りの部屋が数カ所あった。


「遠くから見たことしかなかったけど、中はこんな作りになってるんだ」


 ここまでくると、ハッキリ大きな音でピアノのメロディが聞こえてくる。

 どの部屋かまでは特定できてないので、旧校舎の廊下を慎重に歩き進んで行く。

 引き戸の扉があって、上に視線を向けるとプレートが張ってあった。


「家庭科室だったみたいね」


 鍵が掛かってない半開きの扉から中を見ると、物置みたいになってる。



 ピアノの音がする場所はここでない、まだ先のようね……



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