メガネをはずした、だけなのに

 床が板張りの廊下を歩き進むと、奥にある教室からピアノの音が響いてくる。

 引き戸の扉は開けたまま、視線を上に向けると「音楽室」と書かれたプレートが張り付けられていた。


「旧校舎の音楽室みたいだけど……」


 こんな場所から、ピアノの音が聞こえてくるなんて不思議に思った。

 たぶん、旧校舎の廊下と渡り廊下を反響して、新校舎まで聞こえてきたのだろう。

 放課後、校舎内にいても気づかなかったから、今日たまたま耳にしたのかと考える。


「それにしても、すごい演奏技術ね……」



 久しぶりに聞いた生のピアノ演奏。

 中学生になる前、賢斗くんの家に通ってレッスンを受けていた頃が懐かしい。

 私は、旧校舎の幽霊話なんてすっかり忘れて、演奏に聞き耳をたてていた。


 誰がピアノを弾いてるか分からないけど、すごい上級者に変わりない。

 私も一応、ピアノを習っていたので実力が分かってしまう。

 学校の先生か、それとも生徒か判断できない。



 私は興味本位で、扉が開いたままの音楽室を覗き込んでしまう……



< 118 / 184 >

この作品をシェア

pagetop