メガネをはずした、だけなのに

 広い音楽教室の中央に、グランドピアノが置かれていた。

 棚や床に、吹奏楽部の楽器ケースなどが雑然と並べてある。

 どうやら、この教室も物置として使われてるみたい。


 グランドピアノだけは、大きすぎて他の場所に移動されないまま残ってたようね。

 乾いた空気と、昔ながらの音響を考えられた室内に響くメロディー。

 演奏に真剣で、背後から見つめる私に気づいてない様子。

 音楽室に入らないで、廊下に立ったまま開いた扉から私は見入ってた。


 細身のスタイルに高い身長の男子生徒。

 椅子に座って背筋を正し、感情移入しながら演奏する後ろ姿は懐かしさを感じてしまう。


 でも、どうして懐かしい気持ちになってしまうのか自分でも分からない。

 木造の旧校舎に響き渡る、超絶技巧のピアノ演奏。

 私は心を奪われ、その場から動けない。


 疾走感のあるメロディーと、誰もが耳にしたことがある人気の曲。



 ショパン ハ短調 作品10 12 革命のエチュード



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