メガネをはずした、だけなのに

 もうそろそろ、先生と二人きりで話がしたいから帰ってくれ、と言ってるような咳払いを目にして私はその場を立ち去る。


「失礼します」


 職員室を出て、大きな溜息をついた。

 恥ずかしくて先生と教室で合いたくないよ。

 でも、帰りのホームルームで顔を合わせてしまう。


 賢斗くんは、どうして冷静沈着でいられるのかな。

 大きなステージ上で、たくさんの観客を前に堂々とピアノ演奏するのと比べたら、先生に何か言われたって動じないってことだよね。


「さすが、賢斗くんだな……」


 昨日の放課後、木造の旧校舎で聞いたピアノ演奏を脳裏に浮かべてる。

 小学生の時、ピアノ教室で賢斗くんに告白したことを思い出す。

 ショパンの曲が上手に弾けて、私に聞かせることができるようになったら。

 それが告白の返事だと言ってたよね……


 つまり、恋人同士になるという誓いの楽曲。


 革命のエチュードは約束の曲じゃないけど、久しぶりに聞いた賢斗くんのピアノ演奏は私の胸を釘付けにした。


「ちょっと、どけてくれるかな」



「はい!すいません!」



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