メガネをはずした、だけなのに
目の前に誰かが姿を表した。
私と先輩の間に、割って入るような感じで立ってる。
細身で背が高い後ろ姿には、見覚えがある。
「賢斗くん……」
私は小声で呟きながら、彼の背中に身を寄せてしまった。
「誰なのよ?部外者は口出し無用なんで……」
梨木くんの彼女さんが、途中で話すのを止めて驚いた表情をしてる。
賢斗くんの背後から少し顔を出して見てたけど、何が起きたんだろう?
「しっ、神童じゃないのよ!」
「あっ、お前……泣き虫のピー子だろ!」
思い出した!泣き虫のピー子さんこと橋本 詩音さん。
私たちが幼いころ、ピアノコンクールの小学生部門は賢斗くんが連続一位で優勝して他を寄せ付けなかった。
いつも二位の橋本詩音さんは、悔しい思いをしてコンサート会場のロビー中央でピーピー泣いてたから、賢斗くんがピー子って名前をつけてたんだ。
でも、賢斗くんが姿を見せなくなった中学生のピアノコンクールで、たて続けに一位優勝をした実力者さんだと聞いた事がある。
清楚な立ち姿が多いピアニスト、なのに今のピー子さんは姿勢が悪くて素行も良くない印象。
「だれがピー子だ!神童がっ!」