メガネをはずした、だけなのに

 梨木くんの彼女さんの目には、賢斗くんしか写ってない。

 ライバルが目の前に突然あらわれて、ちょっと興奮してるように見える。


 賢斗くんに助けられて、私は命拾いした。

 きっと、職員室で先生と話が終わって、自分の教室に戻る途中で救いの手を差し伸べてくれたんだと思う。


 でも、先輩は鬼の形相で敵対心むき出し。

 さらに賢斗くんへ向け怒鳴ってきた。


「神童こと桜井賢斗!また勝負ができるとは思いもしてなかったわ!絶対に負けないから覚悟なさいっ!」


 少し沈黙した賢斗くんが、クールな表情で静かに話し始めた。


「なんのことだ?」


「とぼけないでよ、神童がっ!」


 階段の踊り場で、二年生の先輩女子と賢斗くんが言い争う姿を他の生徒が見つめてる。


「じゃあなピー子、用事がなければ俺たちは行くぜ」


 振り返った賢斗くんが、私の肩に手を乗せて歩き出そうとした。


 ――その時、橋本詩音さんが小さな声で言い放つ。



 ショパン ハ短調 作品10 12 革命のエチュード……



< 129 / 184 >

この作品をシェア

pagetop