メガネをはずした、だけなのに
「今は、何も話したくないのね……」
私の言葉に対して、賢斗くんは無反応。
相変わらず秘密主義なので、しかたないのかな。
おしゃべりな男子は嫌われるけど、賢斗くんはもう少し胸の内を私に話してくれてもいいと思う。
それができたら、橋本さんが話してた事をすべて知ってたよね。
私に心配かけたくないから?それとも、関係ない部外者ぐらいに思ってるのかな。
どっちにしても、切なくて寂しい気持ちになってしまうよ。
「ねえ、賢斗くん」
「なんだ……」
私に背中を向けたまま、短く返事をしてくる。
「私はてっきり、賢斗くんがピアノを嫌いになってると思い込んでた」
「そうか……」
「お母さんの知り合いのピアニストさんに師事して、中学生だった三年間、一人で頑張ってたんだね」
「まあな……」
「コンクールには出場しなかったけど、小学生の時から好きだったピアノへの情熱は今も変わってない」
「……弓子には、俺の心の中が見えるらしい」