メガネをはずした、だけなのに

 向かい合って、お互いに目を見つめてる。

 まるで、時間が止まったような錯覚になってしまう。

 すれ違う生徒や、周りの雑音も気にならない二人だけの空間。


 そんな状況を打ち破るように、賢斗くんが話かけてきた。


「小学校を卒業してからの俺は、腑抜けだったよな」


「えっ……」


 寂しそうな表情で話す賢斗くんに、見覚えがある。

 お母さんが入院して、ピアノ教室を閉鎖した時と同じ顔だ。


 中学生になってすぐ、神社の鳥居前で箒を手に掃除をしていた事がある。

 賢斗くんが肩を落として姿を見せた時と同じだ。

 その時の私は巫女さん姿だったのを覚えてる。


 賢斗くんは、今と同じように多くは話さない。

 でも、二人そろって神社にお参りしたのを覚えてる。

 共通の願いは、賢斗くんのお母さんの病状が良くなること。


「きっと病気は回復に向かうよ、巫女の私が言うんだから間違いない!」



 笑顔を見せながら、そう言って励ましたのを覚えてる。



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