メガネをはずした、だけなのに
「おはよう……ございます……」
いきなり巫女コスプレイヤー呼ばわりされて心外だけど、怖くて言い返すことはできない。
年上の先輩なので、挨拶はしておかないと後で何を言われるか分からないよね。
相変わらず目尻を吊り上げて不機嫌そうにしてるけど、梨木くんとの誤解は溶けたみたい。
だけど、上から目線で言ってくる姿に変化はなかった。
「今日は、神童と一緒じゃないようね」
「賢斗くんですか……」
「まあ、三年もコンクールに不参加だった奴のこと、気にしてもしょうがないわね」
梨木くんの彼女さんは、ブツブツと独り言をつぶやきながら立ち去って行った。
小学生の時だけど、ピアノコンクールで連続一位優勝してた賢斗くんのことを意識してるみたい。
久しぶりの直接対決に、すごく警戒してるのが分かる。
旧校舎で聞いた革命のエチュード、高校生とは思えないほどレベルの高い演奏だった。
今度のコンクールで二人が対決するんだから、ただ事じゃないのは確か。
賢斗くんに一位を阻まれ、ロビーで泣いてたピー子の時とは違うはず……