メガネをはずした、だけなのに

「予選は昨日だったようだ、桜井は終わりのほうらしいぞ」


「先生……」


「礼はいいから、早く行け」


 両手でパンフレットを抱きかかえたまま、小さく頭を下げた私は走り出す。

 廊下を歩いてる生徒を避けながら、階段だって二段飛ばしで駆け下りる。


「弓子ちゃん、どうしたの?」


「ニコル!ごめんねっ!」


 すれ違ったニコルに短く答えて、私は廊下を走り続ける。

 生徒玄関で素早くローファーに履き替え、校舎の外に出た私は疾走した。


 大きな通りに出てみたけど、タクシーが見あたらない。

 黙っててもしかたないので、私は再び走り出す。


 ポニーテールで結ばれた、長い黒髪の毛先が揺れる。

 制服の短いスカートもフワフワして気になるけど、今はそれどころでない。

 パンフレットが入った茶封筒を両手で胸にかかえ、周囲を見回す。


「こんな時にかぎって、もうっ!」



 イライラする自分の心を宥めながら、タクシーを探した。



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