メガネをはずした、だけなのに
背後から迫るタクシーを発見、素早く右手を上げてアピールする。
ウインカーを出して停車したタクシー、後部座席の扉が開いてすぐに私は飛び乗った。
「すいません!文化会館メモリアルホールまでお願いします!」
声を張り上げ、急いでる感じが伝わるように行き先を説明する。
タクシーの運転手さんも理解してくれたようで、小さく頷くと何も言わずに車を発進させた。
「午後三時には演奏が終わるから、その前に何とか……」
祈るように小声でつぶやきながら、私はタクシーの後部座席でおとなしくしてる。
一人で心細い気持ちもあるけど、今はそれどころじゃない。
梨木くんの彼女さんが最終演奏者だって言ってたけど、本当かな?
そんなの事前に分かってしまうの?それとも適当に言ってただけ?
お互い、革命のエチュードを弾いて白黒つけるなんてありえるの?
色々な考えが頭の中をかけめぐる。
昼休みの学校を抜け出し、急いで会場へ向かってるけど。
賢斗くんの演奏が終わってたら、どうしよう……