メガネをはずした、だけなのに
私の周りに座ってる人たちからの評判もすごくいい。
「今回も橋本詩音で決まりか」
「去年の覇者は貫禄あるわね」
「中学生の時に三年連続で一位優勝したって凄い」
など、武勇伝のように話していた。
小声で囁くような会話でも、私の耳に入ってくる。
ステージの中央で一礼して、顔を上げた橋本詩音さんと私の視線が合ってしまった。
目尻をピクピク吊り上げてるけど、顔の表情は崩さないまま椅子に腰を下ろした。
ステージから見下ろすと、制服姿の私は目に付きやすいのかな。
前から五列目の中央座席って、すごく目立ってしまう事に今さら気づいた。
そう思ってる間に、橋本さんの演奏が始まろうとしてる。
――指先が鍵盤へ触れると同時に、力強い旋律が走った。
漆黒に輝くグランドピアノから奏でられる曲は
ショパン ハ短調 作品10 12 革命のエチュード
宣言どおりの課題曲だ。