メガネをはずした、だけなのに

 最終演奏者、桜井賢斗……


 その名前を聞いて、私は背筋にゾクゾクと寒気を感じた。

 空調が寒かったり、スカートの丈が短いからじゃない。


「まさか、最終演奏者だったなんて……」


 すでに演奏を終えたと思っていたので、嬉しくてしょうがない。

 パンフレットや進行表を膝の上に置き、両手で口元を隠してしまう。


「あの、あの……」


 私一人なのに、動揺して小声が出てしまう。

 周りの人に変な目で見られてるかもしれないけど、そんな場合ではない。

 もうすぐ、賢斗くんの演奏が始まるのだから。


 旧校舎で聞いた革命のエチュードは、完成度も高くコンクールに向けてのものだと考えてた。

 でも、橋本さんが情報を素早くキャッチ。

 同じ課題曲をぶつけてくるなんて、賢斗くんをライバルとしか見てないのだろう。


 そんな二人が立て続けに演奏なんて、偶然としか思えない。



 などと考えてる時、スーツ姿の賢斗くんが姿を表した……



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