メガネをはずした、だけなのに

 ステージ上から、私の瞳を見つめる賢斗くん。


 小さく頷いてから、視線を横に外すと椅子に腰を下ろして座高を調節し始めた。

 深呼吸をして、顔を上げるとスポットライトを見つめてる。


 漆黒のグランドピアノを目の前にする賢斗くんは、緊張で胸が押しつぶされそうなのかな。

 ゆっくりと視線を下げて、指先を鍵盤の上へ静かに乗せる。


 スローなテンポで弾き始めた曲は……


「うそ、革命のエチュードじゃない」


 私は急いで進行スケジュール表に目を向ける。

 最終演奏者、桜井賢斗、その課題曲は……



 ショパン エチュード イ短調 作品25 11 木枯らし



 会場の乾いた空気、細かく舞い散るホコリがスポットライトの光に反射してる。

 キラキラと粉雪が舞っているような情景の中、賢斗くんは優雅にスローテンポで曲を弾き続けてる。



 ――突然!



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