メガネをはずした、だけなのに

「賢斗くんに可愛いなんて、今まで言われたことないんですけど……」


「そうか? メガネをかけてなかった小学生の時の弓子みたいで、俺は好きだけどな」


「小学生の私は、メガネしてなかったね……」


 幼い頃の私を、賢斗くんは覚えてる。

 ピアノ教室で告白した時の答えはまだだけど、忘れてないよね……


「先生がくる時間だぞ、自信を持って教室に入ろうぜ」


 久しぶりに見た、賢斗くんの優しい笑顔。

 私は恥ずかしさで、下を向いてしまう。


 ――その時


 彼が私の頭を優しく撫でてくれた。

 うれしくて、胸がぎゅっと締め付けられる。


「じゃあな、がんばれよ」


 賢斗くんはそう言うと、A組の教室に向かって歩き始めた。

 私がイメージチェンジした理由を聞かなかったけど、何となく分かってたのかも。

 いつも無愛想で冷たいクールな賢斗くんが、笑顔で応援してくれたのだから。


 廊下に立つ私は、自信を持っていこうと覚悟を決めた……



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