メガネをはずした、だけなのに

 賢斗くんは今、有名なピアニストを何人も育てた先生を師事してるみたい。


 病弱なお母さんと知り合いで、ピアノ教室を閉鎖する時に頼んでいたようだ。

 でも、中学生だった三年間は一度もコンクールに出場してない。

 小学生の時は地元で神童と呼ばれていた賢斗くん、心に響く演奏で聞く人を魅了してたけど……


 お母さんのこともあって、詳しくは聞けないまま。

 私自身の悩み相談は、賢斗くんにしないと決めている。

 これ以上、心労をかけたくないから……


 そこで、ちょっと抵抗はあるけど副委員長の相葉くんに聞いてみる。

 年上の先輩から人望のある、元生徒会副会長なら良いアドバイスぐらい聞けるはずだ。


 そういえば、私がメガネを外してから気軽に話しかけてこない気がする。


「どうしたのかな……」


 教室の窓際に立って外を見つめる相葉くんが視界に入った。

 一人で哀愁に浸りながら目を細めてるので、声はかけやすい。


「相葉くん、ちょっといいかな」


 私に視線を向けた相葉くんが、大きな声でいきなり怒鳴ってきた。


「この、裏切りもの!」


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