メガネをはずした、だけなのに

 それぞれの教室へ向かう別れ際、ニコルが呟くように言ってきた。


「クソ眼鏡のお一人様ミュージカル、この先も続くのかな……」


 廊下を歩くニコルは、振り返らずに自分の教室へ入ってく。

 その場に立ち尽くす私は、最悪のシナリオを脳裏に浮かべていた。


 B組に入ってすぐ、一輪の薔薇を持った相葉くんが待ちかまえてたらどうしよう。

 クラスメイトの視線を無視して、グイグイと自分の主張を押し通してきたら困る。

 でも、そのくらいの行動力がないと、中学生の時に生徒会副会長は勤まらなかったでしょうね。


「ちょっと憂鬱だな……」


 あんなに面倒くさい性格でも、相葉くんの悪い噂や陰口は耳にしない。

 中学生の時に同じ学校だった年上の先輩からも人望はある。

 頼れる年下の後輩みたいな感じで、先輩からも声をかけられてるし。


 考え込み教室の前で立ち尽くす私に、誰かが声をかけてきた。


「弓子、どうした?」



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