メガネをはずした、だけなのに

 聞き覚えのある声を耳にして、私は振り返る。


 ポニーテールで結んだ長い黒髪の毛先が、フワリと揺れた。

 メガネをはずし、コンタクトレンズをしてるので声の相手が良く見える。


「賢斗くん……」


 細身の長身で、クールな表情の彼が私を見つめてる。

 廊下で立ち尽くす私の後ろ姿を目にして、声を掛けてくれたんだ。

 気になって話かけてくれたと思うけど、相葉くんとの事情は教えたくない。


 などと考え込んでる時に、目を細めた賢斗くんが私の顔を見つめてくる。


「メガネ女子姿の弓子を知ってる人は、別人と勘違いするよな」


「そっ、そうかしら……」


 昨日の今日だし、相葉くんとの事は耳に入ってないはず。

 教室が別々で良かった、賢斗くんには絶対に知られたくないよ。


 廊下で立ち尽くす、私の後ろ姿が気になって話かけてくれたんだよね。

 しかも、外見まで気に掛けてくれたようで、イメチェンして良かった。


 そういえば最近、地味って言われない……


「今度は賢斗くんとミュージカルしてるの~っ!」


 うわっ、ニコルがA組の教室から顔を出して、よけいなことを叫んでるよっ!



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