メガネをはずした、だけなのに

 放課後、クラスメイトたちが教室を出て帰路につこうとしてる。

 掃除当番を終えた私は自分の席に歩み寄り、椅子に座って帰り支度を整えてた。


 周りを見ると、教室の中は私一人しかいない状況。

 用事のない生徒は学校を出た後だし、部活動で忙しい人は練習が始まる時間帯。

 騒がしい喧騒が落ち着いて静かになった教室で、男の子が私の名前を呼ぶ声が聞こえる。


「綿貫さ~ん!」


「はい!」


 部室でジャージに着替えた梨木くんが、教室に入ってきた。

 清々しい笑顔で白い歯がキラッと光ってる。

 スポーツマンらしい爽やかさで、今日もたくさんの女子に声を掛けて話し込んでいた。


 私は、その中の一人にすぎないので特別な感情は無いと思う……

 女の子の名前を個別に呼んで挨拶してるようだけど、何か特別な用事や約束をしてる訳ではない。

 たぶん、女子とお話するのが好きなタイプの男子なのだろう。


 そんな梨木くんが、放課後の教室に足を運んで何を言いに来たのかな?


「あのさ、綿貫さん」


「はい……」


 ちょっと警戒しながら返事をした私に、驚くような事を言ってくる。


「サッカー部のマネージャーになってよ!」


「……えっ?」



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