メガネをはずした、だけなのに
また、梨木くんが突拍子のないことを言い出した。
軽い口調でスカウトしてくるけど、運動部のマネージャーは大変だと思う。
中学生の時に、同じクラスの女の子が苦労してるのを見ていたので、安請け合いできない。
私は学級委員長という大役を担ってるので、無理だと考える。
自分への負担が今より増えることは、なるべく避けたい。
「私はB組の委員長だから、マネージャーとの両立は難しいかな……」
「あっ、そうだったね!」
「ごめんなさいね」
「うん、わかったよ綿貫さん!」
梨木くんは私の話を理解してくれたようで、あっけなく引き下がってくれた。
椅子に座ったまま話をしていた私は、深い溜息をついて安堵する。
帰り支度を整え、鞄を手に持った私は席を立って後ろを振り返った。
クラスメイトが誰もいないことに、今さら気づく。
「みんな帰ったから、教室に残ってるの私と梨木くん二人だけみたい」
「まあね……」
「部活、始まってるよ」
「うん……」
私は、梨木くんの目前を通り過ぎて歩き進み、教室を出ようとした。
――その時!