メガネをはずした、だけなのに

 また、梨木くんが突拍子のないことを言い出した。


 軽い口調でスカウトしてくるけど、運動部のマネージャーは大変だと思う。

 中学生の時に、同じクラスの女の子が苦労してるのを見ていたので、安請け合いできない。


 私は学級委員長という大役を担ってるので、無理だと考える。

 自分への負担が今より増えることは、なるべく避けたい。


「私はB組の委員長だから、マネージャーとの両立は難しいかな……」


「あっ、そうだったね!」


「ごめんなさいね」


「うん、わかったよ綿貫さん!」


 梨木くんは私の話を理解してくれたようで、あっけなく引き下がってくれた。

 椅子に座ったまま話をしていた私は、深い溜息をついて安堵する。

 帰り支度を整え、鞄を手に持った私は席を立って後ろを振り返った。

 クラスメイトが誰もいないことに、今さら気づく。


「みんな帰ったから、教室に残ってるの私と梨木くん二人だけみたい」


「まあね……」


「部活、始まってるよ」


「うん……」


 私は、梨木くんの目前を通り過ぎて歩き進み、教室を出ようとした。



 ――その時!



< 66 / 184 >

この作品をシェア

pagetop