メガネをはずした、だけなのに

「まって綿貫さん!」


 呼び止められたので、廊下に出る直前で私は立ち止まる。

 何気なく振り返ると、すぐ目の前に梨木くんがいた。

 その表情に笑顔はなく、真剣な眼差しで私を見つめてくる。


「梨木くん、どうして……」


 私の言葉を断ち切るように、すぐ後ろの壁に背中を押しつけられた。

 梨木くんの左手が、私の肩を掴んで離さない。


 誰もいない教室に、静寂の時が流れる。

 窓を開けたままなので、グラウンドにいる野球部の掛け声が聞こえてきた。

 体を硬直させたまま、口を噤んでその場に立つことしかできない。


 私を見つめたまま、梨木くんが顔と体を近づけてくる。

 肩から左手を離して、私の体を解放した。


 ――その瞬間!


 耳元を掠めるように延ばしてきた右手を、壁に叩きつけた。

 私の体は梨木くんと壁に挟まれて、身動きがとれない。



 私は今、同級生の男子に思いっきり壁ドンされてる……



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