メガネをはずした、だけなのに

「綿貫さん……」


「……」


 梨木くんの顔が近くて、話かけられても言葉が出てこない。

 私は視線と顔を横に背けて、抵抗するのが精一杯。

 緊張で固まった体は、思い通りに動かないよ。


 少女マンガで見たことはあるけど、自分がリアルで壁ドンされると思わなかった。

 足は内股になってクネクネしちゃうし、両手は真っ直ぐ床に向かってダラリと伸びたまま。

 受け身の状態で、何も抵抗できない私がいる。


 梨木くんの息づかいが耳元で感じられる。

 顔と体が恥ずかしさで熱くなってきた。


「落ちついて聞いてよ、綿貫さん……」


 ジャージ姿のサッカー男子に壁ドンされてる状態で、落ちついて話を聞けるわけがない。

 なんなの梨木くん、いったい何がしたいのよ!


 動揺する私に構わず、耳元で囁くように梨木くんが話かけてくる。


「キミのことが好きだ……」



< 68 / 184 >

この作品をシェア

pagetop