メガネをはずした、だけなのに
「わかってるよ……」
渋々だけど歩き出した梨木くんが、振り返って「また教室で!」と軽い口調で私に言ってきた。
「ちっ」
その態度を見て機嫌が悪くなったのか、年上の女子生徒は舌打ちして不快な表情。
梨木くんの姿が見えなくなってから、声のトーンを低くして私に言ってきた。
「祐介に手だしたら、ただじゃ済ませないから……」
私は首を縦に振って頷き、黙って聞き入れる。
きっと、この人は間違いなく梨木くんの年上彼女さんだ。
噂で聞いてた通りの容姿と態度なので、何となく気づいてしまう。
だけど、私が後ろ指を刺されるような事は何もしてないのに、すごく理不尽で悔しいよ。
梨木くんが一方的な態度で交際を迫ってくるから、恋愛に未熟な私は戸惑っていただけ。
なんとか間一髪で難を逃れることができたけど、梨木くんの彼女さんに目を付けられてしまった。
「アンタもしかして……いや、待ち受け画像の子と雰囲気ちがうわね……」
などと呟きながら、彼女さんは背を向けて教室がある方向へ歩いて行った。
この時、首を縦に振って頷いた行為が、私を苦しめることになる。
梨木くんとの事は、はっきり否定しないと疑われてしまう。
でも、恐怖で口を噤んでしまい言葉が出てこなかった……