毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
剥がれ落ちる仮面
「今日の夜はナイトウォークだったっけ?楽しみだなー!」
「ここは星がたくさん見えるらしいよ。好きな人と見られるといいね」
「うん……勇気出して見ようかな」
階段の方から他校の女子がロマンチックな会話をしているのが聞こえて、慎くんは慌てて身体を離す。
彼の幸せそうな顔を確認したところでほっと一息つくと同時に再び罪悪感が湧いた。
「あれ、食堂でキスしてたカップルじゃん」
「……っ!?」
その言葉を聞く限り、私達のやりとりを見ていたのだろう。
キスしてた、という言葉に頬を赤く染める慎くん。
私はそれどころではなく、息を呑んだ彼女の方を見て同じように息を呑んだ。
二人組のうちの一人は私に笑顔を向けられて『は?』と言った女の子。
夕食会場でもここでも私を見て驚くなんて。
知らない内に何かしてしまったのだろうか。
「……結城かれん」
「えっ」
どうして私の名前を?
もしかして、噂でフルネームまでバレてるってことなのだろうか。
というか、そんなに恨めしそうにこちらを睨まないでほしい。
濃いめのメイクが相まって視線が棘のように突き刺さって痛い。
蛇に睨まれた蛙のようにぴしりと動けなくなっていると、私を上から見下ろす彼女は虐げたように笑いながら低い声を出す。
「あんた、女子に向かって笑うことが出来たんだね」
「……どういうこと?」
その言葉でようやく目の前の彼女と私がどんな関係なのかを理解した。
私が彼女のことを知らなくても彼女は私のことを知っている。
だがしかし、それは今の私ではなく、きっと過去の私の事だろう。
私が「なんのこと?」ととぼける前に疑問の声をあげたのは慎くん。
これは非常にまずい。