毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
そして私はにっこり、と誰もが息を呑むような完璧な笑顔を添えて、
「誰かと間違えてない……?」
ありきたりなとぼけ方で誤魔化した。
素直に認めるとでも思っていたのだろう。
素の私を知る彼女は驚いて言葉を失っている。
言葉は典型的なもので雑だけど、今の私は"愛想が悪い"、"冷めた目"、"下劣"とは無縁。
過去の事実を否定するのはこのとぼける言葉だけで十分だった。
事実であることを否定する、つまり今の仮面の下の自分を否定するということと真実を話している人の方を虚偽であると主張することに対しては胸が痛むが……だからと言って、今の私の日常を奪う権利は誰にもない。
もちろん、目の前の彼女にも。
「私はいつもこうして笑ってるし、みんなと仲良くしてるんだ〜。こうして素敵な彼氏もいるんだけど、誰かのものだった慎くんを奪うなんてこともしてないよ!」
ぎゅっと慎くんの腕にしがみつく。
彼女の言葉に耳を傾けていた彼は、ようやく我に返って日頃の私を思い返しているらしい。
数秒の間があったあと、自由な方の手で私の頭を撫でた。
大切なものを撫でる優しい重みと、疑ってごめんと謝るような視線に、罪悪感が募る。
「私は昔からこうだよ!よく笑うし、一人じゃ何も出来ないからみんなに助けてもらうし……そんなに出来も良くないからね!」