毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「……っ!!」
私の中の地雷を容赦なく踏み抜いた彼女の顔はここ一番の幸せそうな表情をしている。
反比例して私の笑みはすっと波引くように消え失せ、目を細めて下から睨みつける。
かろうじて引っかかっていた仮面が剥がれ落ちた瞬間だった。
……何も知らないくせに。
されるがままの不自由さを……持つ者の苦悩やのしかかる重圧を知らないくせに。ふざけるな。
……いや、何も知らないからこそ。私の心の内のことなんて考えていないからこそ、心ない言葉を浴びせられるのか。
そう理解した途端、一瞬沸騰した頭が徐々に冷えていく。
そうだ。
何も知らない者には何を求めたって無駄だ。
思いやりのない人間なら尚更のこと。
同情すらもしてくれない。
「あの、ごめん。理解が追いついてないんだけど……つまり、何?かれん、本当のことを教えてほしい」
あぁ、そっか。そりゃそうだ。
疑う余地しかない状況だもんね。
彼女である私よりも、目立つ見た目をしている私のことを他人と間違えるわけが無いと説得力があることを言っている初対面の彼女を信じるのは仕方ない。
無言は肯定というのは有名な言葉で、私はついさっきそうしてしまったから、なおさらのこと。
──さて、彼は彼女の言葉をどこまで信じているのだろうか?
実は愛想が悪い、は事実だからいいとして……人を見下す、彼氏を奪う下劣な奴、は思われたくないなぁ。
なんて、虫がよすぎるか。
彼が彼女の言ったことを後半部分まで信じているのなら、関係を終わりにしなければいけない。繋ぎ止めることなど出来やしない。
そうわかっているのに、それでも後悔とか未練だとか。そんな思いが湧き上がってこないのだから、私は本当に心のないお人形さんなのかもしれないと乾いた笑いがこぼれた。