毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
あぁ、なんだか珍しく情緒が安定しない。
こういうときはどうするんだったっけ?
慎くんも私も、お互いに目を合わせようとしない。
終始黙って様子を見ていた一人の女の子はおろおろと視線をさ迷わせ、この事態を巻き起こしたもう一人は復讐をなしとげた、そんな達成感溢れる顔で不幸な私達を見つめる。
今日は散々な日。
明日はどんな噂が飛び交うだろうか。
キスの噂?それとも破局の噂?
甘いか苦いか。
正反対の噂が飛び交うなんて、ちょっと笑ってしまう。
そこから思考が別のことへと転換する。
ふっ、と声が漏れると、そこから笑いが止まらなくなってしまった。
「……かれん?」
そこでようやく、彼氏と目が合う。
壊れたように可愛くない笑いを見せる私を、心配と困惑と恐怖が混ざったような微妙な顔で見てきた。
余計に笑いが込み上げてきて、私はさらに声を上げた。
「あっはは、そうだよね、みんなは可愛い私が大好きなんだもんね!」
そりゃそうだ。
高校に入ってからは素の私しか見せていないのだから、本当の私を好きになる人なんて、当然いるわけが無い。
そんなことわかっている。
それなのに、何を当たり前のことを今更言っているのだろう。
「慎くん、大丈夫だよ。今の私はこれからもずっと変わらない。みんなに可愛がられて愛される、かれんちゃんのままだから」