毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
みんなに愛されない、素のかれんは見せない。
母がああなってしまったあの時から決めたこと。
だから安心して、可愛いかれんに疑いを持たないで欲しい。
そう願っているのに。
願っているはずなのに、どうして視界が滲むのだろう。
どうして、胸が張り裂けそうなのだろう。
愛想の無い、クールになんでもそつなくこなす、甘やかしがいのない私を愛する人がいない、という事実を改めて認識させられたからか。
そして、そんな私はいらないと。私の存在を完全に否定された気がするからか。
……いや、本当は理由なんてとっくにわかりきっている。
昔からそれを認めようとしなかっただけ。
私はきっと。
結城かれんはきっと。
たった一人でもいいから。
自分を理解してくれた上で、愛情を与えてくれる誰かが傍にいて欲しいのだ。
「───へっ?」
ようやく自分の否定してきた思いを認めることで数年ぶりに涙が溢れ出……たところで、後ろから誰かに目隠しをされた。
視覚が遮られることで他の五感が研ぎ澄まされる。
ふわっと香った爽やかな匂いに心当たりがあった。
「水上く、ん……?」
「正解。キャンプファイヤーの打ち合わせ、行こうか」
聞こえてきた声は心なしか女子と話す時よりもワントーン低めで、早口。
どんな表情をしているのか気になって目元を覆う手を剥がそうとしたけど、ぐっと力が込められてそれは叶わなかった。
「ちなみに坂本くん」
「……なんだ?」
「何があったか知らないけど、僕なら彼女を泣かせない」
「……それ、どういう意味?」
私の問いには答えず、登場して数秒。
意味深な言葉を残して、その場から私を連れ去った。
水上くんの手から伝わる人の温かさにほっと、安心する。
今はこの温かさに身を任せていたいと思った。