毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
いや、でもそんなはずはない。
だってなっちゃんから聞いた王子様の噂話には私の通っていた中学どころか、そこの地名すらも出てきていなかった。
それなのになぜ、彼は私のことを知っているだなんて言うんだろう。
混乱している私を他所に、自分のペースを貫く王子様はさらに言葉を続ける。
「運動神経がいいのも知ってる」
「…………」
「頭がいいのも知ってる」
「…………」
「そしてそれを徹底的に隠していることも」
指折り数えながら次々と仮面の下を容赦なく暴かれていく様子に固まっていると、端正な顔が、いつの間にか唇に息のかかる距離まで来ていた。
「でも、その背景を僕は知らない」
あぁ、そうか。
……私は彼から逃れることは出来ない。
私のことを知りたいと思っている彼は、逃げても逃げてもしつこく追いかけて私の近くへ……いや、内側へと潜り込んでくるんだ。
そう確信したのと同時に。
「だから、早く。君のその口から、君の全てを教えてよ」
私は抵抗するのをやめて、白旗をあげた。