毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
3.彷徨うお人形
仮面をかぶるまで
────小さい頃から、容姿について褒められるのは当たり前だった。
幼稚園のお友達や先生達はもちろんのこと、同じ血が流れて多少は見目がいいはずの親戚の人達までもが私の顔を賞賛した。
一目見れば私と血が繋がっているということがわかるほどに容姿が整っている母は、毎日、嬉しそうに私にピンクや赤の可愛らしい服を着せて、長い髪の毛を櫛で丁寧にといてくれて。
そうして手を引かれて行くのはいつも同じところで、母の友達との集まりの場所。ようは私は見せ物でそれを所有している母は優越感に浸っていた。
幼稚園児の私は母にとってまさに着せ替え人形だった。
だけど、母にとってそんなお人形の気に食わないことが一点。それは愛想のなさで。
家に帰ると肩を掴まれ、怖い顔で説教をされた。
『かれん、せめてママのお友達の前では笑うようにしなさい』
『楽しくないのに笑わなきゃいけないの?』
『そうよ。それがあなたの価値を上げるの』
怒っていた母がうっとりとした目をして私を見下ろしたけれど、なにを言っているのか、まるでわからなかった。今でこそその意味がわかるものの、幼い私に理解しろというのは無理がある。
それに、そもそも私は感情が顔に出にくいのだからどんな風に笑えば自然なのかがわからず、表情を作るにしても難しくて、やっぱり無理だった。