毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


……薄々、わかっていたことじゃないか。
何を今更ショックなんて受けているんだ。
お母さんに褒めて貰えなくて悲しいだなんて、どこの幼稚園児なんだ。


それに、母の価値観は一般的ではない。だから、家では認めて貰えないけど学校では違うかもしれない。


私は可愛いだけの人間じゃない……!


泣き叫びたくなるのを必死に堪えて、来る日も来る日も自分を磨いた。勉強も運動も絵も歌も料理も。全部。私の持つ時間全てをそれらに費やした。やれるだけのことをやった。


……だけど。それも結局、無駄だった。


『あの子でしょ。先生からよく贔屓されてる子って』

『そうそう。なんでも出来るからって先生達に好かれてて、雑用とかよく免除されてるらしいよ』

『なにそれ、ずるじゃん!先生に媚び売って楽してるってことでしょ?』


そんな女子達の高くてよく通る声が、私の耳に届いたのは中学一年生の終わり頃。


私が得たものは確実に自分の力となったけれど、私の望むものは手に入らなかった。


それどころか、生徒からは陰口を叩かれ、先生からは期待という圧をかけられるようになり、生きづらくなっただけ。


自分の価値は上がったはずなのに評判は地の底の方まで落ちていく。
その事実があまりにも想定から外れていて笑ってしまった。


その後、よく考えてみれば先生達には私が可愛いだけの人間ではないというのを証明出来ていることに気づいたが、私を孤立させる一つの要因ともなった人達に認められても全然嬉しくなかった。


……なんて、それは私がわがままなのだろうか。


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