毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
なんでも出来るからって特に威張っていたわけでもないけど、愛想笑いが出来なかったことでスカしたやつだと思われたのかもしれない。
真実に女子達の主観を添えた噂は加速して広まり、男子の中では高嶺の花、女子の中では悪意を向けるべき敵となったのだった。
だけど、私がやることに変わりはなかった。
自分を取り巻く環境に最初は落ち込みこそしたものの、彼女達の思惑通りにここで私が調子を落とせばいい笑い者にされるだろう。
一度目立ってしまえば、そこから普通の立場に戻ることなんて出来ない。
変わるとすれば上から下へと落ちぶれるだけ。この悲惨な状況からさらに酷くなるなんて、考えただけでも恐ろしい。
そんな私に神様がご褒美、あるいは慈悲をくれたのか。そんなときに出会ったのが、高校が離れた今でも付き合いのある瀬戸口舞だ。
可愛いと言われ続けた私に唯一かっこいいと褒めてくれた……私の努力を認めてくれた人。
たまにどこか一歩後ろにいるような、私を下から見上げるような、そんな感覚に陥るときがあって。
それに気づいたとき少し寂しくなるけど、それは私がなにかをすることで変わるようなものでもないことがわかっているし、もっと長く一緒にいれば自然と変化していきそうな気もするから成り行きに任せようと思う。
……まぁそれはともかくとして、彼女は一筋の光だった。
彼女と出会ってからというもの、二人で過ごすことが多くなり、私生活での交流も増え、学校生活を久しぶりに楽しいと思え始めた中学三年生の夏。
私の生き方をがらりと変える事件が起こった。