毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
『まぁ、いいや。なんで連れてこられたかわかってんの?』
『わからない』
「だって、あなたとは初対面だから」という言葉はもう一発飛んできたビンタによって遮られた。
一発目もそうだったが頬を張られるとほっぺたがじんじんするし、脳みそも揺さぶられてくらくらする。誰かに暴力を振るわれたことがないから初めての感覚だった。
『ここにいるみーんな、アンタのせいで不幸になってんの。他人を不幸にしてる自覚がないとか、ほんとクズだな』
そう言ってリーダー格の女子は一番近くにいた、口を閉ざして俯いているメガネをかけた女子を指さす。
……もしかして、今からなにか茶番が始まるのだろうか。
『まず、この子は学力推薦で高校に行きたがってる。でも、アンタが推薦を受けた高校と同じで、アンタの方が成績がいいから既に枠が埋まってしまって推薦をあげられないって先生に言われたらしい。次に……』
その隣にいるボーイッシュな子に指先をスライドさせた。
指の先ではなく爪に目がいってラメ入りのマニキュアを塗っているのに気づく。中学生には似合わないものなのに背伸びして付けているのがまた、彼女がどういう人間なのかを示してくれた。
『その子はバスケ部に入ってて今年の夏の大会で引退する。だから、最後の大会のレギュラーになりたい。だけど、顧問の先生が言うには、大会で勝つために部員でもない部外者のアンタを上手いからってだけで出場させるって。そしたら、この子は最後の大会に出られなくなる。最後に……』
一番遠くからこちらを睨む女子にキラキラの指先が向けられた。
今までの二人は視線が合わないか、たまに合ったとしてもほんの少しの恨みしか込められていなかったのだけど、あの子の恨みはそんなもんじゃなさそう。
次はどんな話で笑わせてくれるのだろうか。