毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす
「──かれん、一緒に帰ろう」
熱い抱擁からの解放を切に願っていると、横から男子にしては高めの声が投げられた。
完全に動物園のパンダ状態となっていた私たちであるが、その男の子は人を割ってこちらへやって来たらしい。
なんたる強メンタルの持ち主かと思ったが。
肩にカバンをぶら下げ堂々と立ち、こちらを見ている一人の男子生徒。
普通の人であれば凄く勇気がいることだろうがこの人にとってはなんてことない。
なぜなら……
「彼氏さんから邪魔されるんだったら仕方ないかぁ……はい、あげる!」
「どーも」
彼は私とお付き合いをしているから。
ふっと力が緩みそのまま私は、唯一、私と一緒に帰る権利を持つ男の子の前へと差し出された。
私はモノか。
「慎くん、今日の部活はお休みなの?」
「そうだよ。だから、一緒に帰ろう。……その、どっか行きたいところでもあるなら寄り道とか」
「いいね、行こ行こ!楽しみだな〜」
暑い、めんどくさい、帰りたい。
それらの言葉を全て飲み込んで普通のカップルっぽい会話を続ける。
これをクラスメイトの視線を浴びたままやっているのだから、公開処刑としか思えない。
お相手さんは幸せなことに私しか見えていないようで、恥というものはないらしいけど。
「お二人さん、見せつけてくれますな〜!はぁー、熱い熱い。テストのことは忘れてイチャついて過ごすといい!」
「えへへ、また明日ね」
言ってる内容は引っかかるものがあるのだけど、この地獄とも言える状況から抜け出せるのならなんでもいい。
目の前にいる男の子と目が合い、染み付いた演技でニコッと。
動き出す前にさりげなく手を引かれ、その手を振り払うわけにもいかず。
歩き出す二人を止める者なんているわけがない。
そんなこんなで終始テンションが高かった女子とその他ギャラリーに見送られ、ようやく教室を出ることが叶ったのだった。