毒舌王子は偽りのお人形の心を甘く溶かす


『甘えるな。私は私が出来る精一杯をやっているだけ。自分の怠慢による実力不足を……負けた理由を、私のせいにしないで』


自分が思っていたよりも低く冷たい声が出て、その場にいる他四人はいよいよ呼吸をする音さえ立てないようにと口を噤んだ。


メガネの子は長く付き合っている彼氏がいる。舞との会話で彼女が出てきて、そのときちょうど彼氏と歩いているのを見かけたことを思い出した。


恋人がいるからと必ずしも悪影響を及ぼすとは言えないが、勉強時間が減るのは確かなことで。


レベルが高い学校に行くつもりでいたのなら、その辺りは考慮すべきだった。私は天才型ではないから、地頭も良いと噂の彼女が努力をしていれば推薦は貰えていたと思う。


だが、実際のところ彼女は私に負けた。私の成績は常に校内一位で彼女よりも上なのだから、推薦をもらう権利は私の方が優先される。そして、私が推薦を受けた高校は家から徒歩五分で偏差値も高いところなのだ。そこに行かない理由がない。



ボーイッシュな子はよく記憶を辿ったら何度も見かけたことがあることを思い出した。


たまには家以外の場所で勉強をしようと一年生の頃から通っている喫茶店や、学校帰りに舞と立ち寄るファミレスで彼女は友達と楽しくお喋りをしていた。スポーツをする身としてはあまり体に良くない炭酸飲料や甘いパフェを口に入れながら。


本気で最後の大会に出たいと思っていたのなら友達と遊ばず練習に励むべきだろうし、多少の我慢は出来たはず。


部外者である私に大きな大会への出場を依頼する先生も大概おかしいとは思うが、大会を優先しなかった彼女には私を責める権利などあるはずもない。


もっとも、その件についてはきちんと断っていたはずなんだけど。

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